私が、自分自身で認める自分の持つ才能は、素晴らしい方々と出会うことだと思っています。
昨年11月に、ニュージーランド首相が来日した時にパーティーが催され、私も出席しました。
その場で高崎経済大学経済学部の佐々木茂教授にお会いいたしました。
柔軟な、そして多角的な視点をお持ちであり、また机上の空論を嫌い、学問のすべてを実践の場に落とすことを信条とされている、エネルギーに溢れる方です。
その佐々木先生から、「ニュージーランドにおける、体験型旅行の取材をアレンジして欲しい」というご依頼がありました。
それだったら、是非、ニュージーランド南島の最大のサイクルイベント、「グレープライド」にいらしてください。
そして、「体験型」の取材なんですから、ご自身でも、是非「体験」されてください!
「そ、そんな・・・」
と、ひるむ佐々木教授のご意見などうかわわずに、101kmのロードレースに参加してもらいました。
リアルニュージーランドが、日本にご紹介しているグレープライドは、ニュージーランドで一番楽しい自転車イベント。
マルボロというニュージーランドで一番大きなワイン産地の真ん中を走る101kmのロングライドです。
もちろん、トップの選手はガンガン走るんですが(最高記録は、2時間24分)、みんな自分のペースで頑張っています。
運動不足を自他ともに認めていらっしゃる佐々木教授。
それでも参加されて、101kmを完走はできなかったものの、すごく楽しんでいただきました。
「なんだろう、このすがすがしい気持ちは。完走していないのに、なんだ、このやりきった最高の気持ちは!」
ひとり言のように、帰りのバスの中で、ずっとおっしゃっていました。
「体験型」のご旅行、その神髄を得られたようです。
そんな、素晴らしい佐々木教授、その意気込みとチャレンジ精神に感服しましたので、
「先生、もしよろしければ、高崎経済大学まで講義しに行きましょうか?」
という、ご提案をさせていただきました。
私も、今までいろんな経験をしてきたし、また、学生の皆さんとしても、ニュージーランドに移住したひとの話を聞く機会もあまりないだろうと思ったので、思い切って言ってみました。
でも、初めて学生に向けて講義をすることになったので、いったい何を話していいのやら。
観光業界に身を置いて、まだ4年弱。
観光政策学科の皆さんのほうが、私よりももっと観光の知識は持っているはず。
さて、どうしよう?!
やっぱり、20数年前、大学生の私が一番気にしていたこと。
それを話そう、と思いました。
「社会に出て、どうやって生きていくことが出来るのか。」
Paper SkyのWeb Versionで、記事を書かれているTeam Yum Yumの山本夫妻も、特別聴講生として来てくれました。
お二人も、ニュージーランドの大ファン!
また10月に、ニュージーランドに再上陸の予定です。
二つのテーマ。
今まで、言葉に出して気にしてきたわけではないけれど、感覚的に大事だと思っていたこと。
いまでも、とても大切な感覚だと思うこと。
1. 「主体性」と「相対性」
2. 「静的」変化
1988年から1989年、平成元年前後が、私が就職活動をしていた時期。
いわゆる「バブル」真っただ中。
誰もが、この好景気が永遠に続くと思い、文字通り踊り狂っていた時代です。
「Japan as No.1」という本までも発売され、世界でベストセラーになりました。
その後、景気は、1990年に最上値を付けて下降線まっしぐらの株価と一緒に、長い暗黒の時代を迎えます。
ただ、そのころと比べると、多分、今の学生のほうが、もっと難しい局面を迎えていると思います。
バブル前後の、そしてそれ以前の学生の中では、社会通念が画一的であったし、価値観のブレが今ほど大きくなかった。
情報が乏しかったために、その情報が共有できる中での競争が行われているに過ぎなかった。
情報の伝達、そして拡散というより、今は氾濫といった局面を迎えている、その起因になったのはインターネット。
講義の中でも言いましたが、文字、紙、印刷に次ぐ、大変大きな、そして画期的な情報伝達の革命がインターネットだと認識しています。
インターネットは、情報の優位性を平たくし、今までのビジネスモデルを根本的なところから揺るがしています。
これが、学生にとっての「先行き」を不透明にさせています。
いわゆる、「価値観の不安定性」が蔓延しているために、何を基準にしていいのかさえもわからないこともあり得ます。
ひょっとしたら、就職活動中に、
「あなたは、10年後にこの会社で何をやっていると思いますか?」
という質問を受けたことがあるかもしれません。
現在の経済ならびに社会状況で、この質問にはなんの意味もありません。
もし、この質問を受けたとしたら、
「10年後の社会情勢ならびに、この会社の状況を「前提」として教えてください。その前提のもとでお答えします。」
が、いちばん正しく、適切な答えです。
それだけ、将来の展望が、誰にとっても見えづらい、反対に言うと「見えない」のが当たり前の時代なのです。
「見えない」のは、いつもそうなんですが、80年代はみんな「見える」と思っていたのですね。
そんな時代を生きる学生を前にして、 伝えられる普遍性のあるテーマが、上記の二つのテーマだと考えました。
「主体性」、簡単に言うと、「自分が何をやりたい」ということ。
でも、一部のずば抜けた才能を持つ人以外、「主体性」を認識することさえも難しい。
「主体」として、自分ができることを認識すること、それは「相対」的に自分を認識することから離れることができない。
一番やってはいけないことは、みんなと一緒のことを、一緒のスピードでやること。
川が流れるように、その流れのうえでは、流れが早いか遅いか、どこに向かっているかさえも認識できない。
「主体」を認識するには、いわゆる「異質」とされる対象(相違性が高い)と接することが、一番簡単な方法です。
いつもの、仲の良い、気心が知れたお友達といるより、全然違った環境で学んだり、暮らしている人たち、年が離れている人たち、そして国籍が違う人たち、そういう人たちと接することで、「主体」「自分」が形作られてくる。
情報が、とても簡単に入る現代だからこそ、相対性を人格形成にまで及ぼすぐらいの異質な人との付き合い、接触が、難しく、面倒くさくなっている傾向があるかもしれません。
だから、昔と一緒。
「可愛い子には、旅をさせろ。」
地球は小さい。
元の会社の同僚が書いた本、「World is Too Flat」。
ビジネスでも、国境も、時差も、そして人間も、その隔たりが無くなっている中、「相対」に裏付けられた「主体」を持つことが、大変重要な時代になってきているのではないでしょうか。
もうひとつのテーマ、「静的」変化。
あまりにも、時代が混とんとしているから、人は安定を求める傾向が強くなります。
でも、ぱっと見で「安定」しているものも、実は「静かに」動いているんです。
日本航空が更生手続きになった後、いろんな人が、あれは誰が悪い、あの為替取引が悪かった、などと各論に落とし込もうとしています。
私からみると、大きな木が寿命を迎えて、ゆっくり音を立てて倒れるような感じかと思っています。
そう、JALが死んだのはもう数10年前だったのかもしれません。倒れるのに時間がかかっただけかも。
今、動いてないものは、反対に動くしかないんです。
もっと言うと、じつはもう動き始めています。
その動きが、ゆっくりだから動いて見えないだけです。
時間軸を横軸にとると、物事は上に行くか、下に行くだけ。
「横ばい」は、物理的に、確率的に、中長期的にはあり得ない動きなのです。
難しい時代ですね。
誰にとっても、難しい。
でも、社会に出ている私たちは、今までの経験や知識、技術等の蓄積があります。
だけど、今から社会に出てくる学生は、今まで以上にたくましさや、したたかさや、柔軟性が求められるのでしょう。
自分がどういう人間なのか、何ができるのか、どんなことにすぐれているのか。
いろんな局面で、そう言った疑問にぶつかると思います。
だからこそ、若者よ、旅に出よう!
異質を知って、自分を知ろう!
ニュージーランドもいいところだぜ!
講義が終わって、いくつかの質問を受けました。
「若者が元気無いって、自分たちだけ楽しんで、そのあとを私たちのせいにするのはおかしいと思います。」
・・・ おっしゃる通り。
こういう社会にしたのは、政治家のせいでも、経済会のせいでもない。
自分たちのせいなんだという、そういう意識がもっと必要なのかもしれません。
私にとっても、すごく勉強になる経験でした。
また、伺いますね、高崎経済大学のみなさま。
私も数年前、超氷河期と呼ばれる就活時代を経験しました。
でも、その時代がどう呼ばれようと
結局は
自分自身
が問われる時代だと
感じるのが今現在です。
新卒とか中途とか
さまざまなカテゴリーがある現在、
社会という土俵に立ったときに
相手に対して自分を
どれだけみいだしてもらえるかというのは
客観的に、でも主体的に自分を捉えられている、
というのが大事に成ってくるかと思います。
高卒だって、大卒だって、
留学経験でもいい。
その中にワーホリ やら 海外経験やら
があっていい時代。
でもどんなにチョイスが増えたって、
自分自身=代わりの聞かない人材
を見つけられる
そういう人に育ってほしいと思いますね。
投稿情報: トラちゃん | 2010年7 月 1日 (木) 22:14
こんにちは、シズですよ(^ ^)
生意気ながらもこの記事に共感することがたくさんあり、じっくり読ませて頂きました。
私の年代から、就職浪人とかフリーターなんて言葉が増え、
「頑張ったってリストラされて途方に暮れるんでしょ?」「40年同じ会社に勤めるのがそんなに凄いわけ??」なんて考える人間が多かったです。結果、駄目もとで好きな事を追い続けた人と、挫折情報やニートが増える中で安心してダラダラしてる人にしっかり分かれてしまいました。
様々なメディアと情報に囲まれ、感性豊かな子がどんどん増えてると思います。目も肥えてます。余計な知識もいっぱい持ってます。 でもどこか、全体的にアウトプットが苦手というか、熱くなるのが馬鹿馬鹿しいって思ってる奴らが多い気がします。内輪で盛り上がるのは得意だけど、外には一歩も出なかったり。
今シーズン、年中滑りたいとぼやく若者たちの尻を引っ叩いてなんとか4名がNZの雪山へ旅立ちます。オークランドから一歩も出ない子を説得し続けたらNZ一周どころか世界一周に変わって、音信不通になっちゃいました。情報も選択肢も多すぎて、何を信用していいのか解らないんですね。逆に信用すると歯止めが利かないほど暴走する(笑 内に籠めてるモノはきっとたくさんあるんですね。
時代が変わっても、旅から生で得る価値観はネットでは伝わりません。私も周囲にどんどん「旅」を勧めていこうと思ってます。
投稿情報: シズ | 2010年7 月 2日 (金) 04:30