ネルソン市内の中心にある、Hardy Street。
そこに4年にわたって人々を惹きつけてきたギャラリー「Yu-Yu (悠悠)」が、多くの人々に惜しまれながら、昨日その歴史に終止符を打ちました。
さよならパーティーには、ネルソン市内、郊外から、たくさんの人々が詰め寄り、突然のお別れを涙ながらに惜しんでいらっしゃいました。
オーナーのクラウザー章子さんは、書道家。
そして、ご主人のTim Crowtherさんは、英国の著名なマーケティング・ディレクターであり芸術家。
二人が織りなす芸術品は、ネルソンに住む私たちだけでなく、この地を訪れる多くの人々を魅了してきました。
その、Timさんが一か月前に、突然脳梗塞で倒れたのです。
その後の章子さんの判断はとても早いものでした。
自分の有り余る書道に対する情熱を注いできた、そして、それまでの苦労、努力の結晶であるギャラリーを閉めることにしたのです。
「私は、Timのリカバリーを 次の人生のゴールにするんです。」
スピーチでも、そう力強くおっしゃっていました。
Timが倒れた後のことについて、自分の気持ちを包み隠さずお話ししてくださいました。
「どうして、私にこんなことが起こるの?」
「一体、神様は何をしているの?」
「これから、私はどうして生きていけばいいの?」
張りのある声でお話しされる中にも、その時のことを思い出し涙ぐむ場面もありました。
Timのリハビリが始まり、徐々に言葉も取り戻したときのことも。
「最初の3つの単語は、You can doだったんです。」
「私は、I love youと言ってほしかったんですけどね。」
Timを見やりながらスピーチされる章子さんの表情には、女神さまのような愛情があふれていました。
私たちがネルソンに移住する前から、章子さんにはとてもお世話になってきました。
初めてお会いした時から、いろんなネルソンの生活のことを教えていただきました。
また、妻の優子は、自分が取り組んでいる琉球紅型工芸のことについて、たくさん、たくさん相談させてもらいました。
彼女が、こちらで自分の芸術を発表する、そのきっかけと勇気を与えてくれたのが章子さんです。
私も、章子さんにはお会いするたびに、檄をかけていただきます。
「40歳代のうちは、死ぬほど働きなさい。」
「そうしたら、年取ったら私みたいに好きなことができるようになるんだから。」
章子さんのこと、だれも年を取っているなんて思っていないのですが、そう言われると頑張ろうと思います。
このごろ、いろんな人に会って思うのは「エネルギー値」のこと。
「元気」という言葉だけでは説明できない、 内に秘めたパワーというのでしょうか。
若い時に発散される「力」ではなく、経験値、考え、そして多くの喜び、悲しみに裏打ちされた「凄み」というものでしょうか。
章子さんと話すと、そんな凄みをとても多く感じます。
いつも、明るい笑顔の章子さんが、優子と芸術の話をする際には、とても真剣な厳しい表情になることがあります。
「プロの顔」とでもいうべきものなのでしょうか。私から見ると、ちょっと近寄りがたいくらいです。
でも、優子はそう感じないみたいです。同じフィールドにいるからでしょうか。
どんなことでも、真剣に取り組んでいる方々の目は、尊厳と迫力があって、いつも畏敬の念を持ってしまいます。
そんな章子さんのスピーチを聞いて、優子が思わず泣いてしまいました。
「私には、ギャラリーを閉めること、やっぱり悔しいって言ってくれたの。」
章子さんの中で、いろんな気持ちが交錯し、混乱し、そして目の前が真っ暗になったこともあったのかもしれません。
そういう時にこそ、「人間」としての本当の強さが必要とされるのかもしれません。
でも、この日の章子さんの前向きな笑顔を見て、この人だったらTimのこと、きちんとリカバーしてあげれる。
私たちは、その思いに、何の疑いも持ちませんでした。
ギャラリーの作品は、もうほとんど売り切れていました。
一点だけ、「一期一会」と大きく書かれた、それは、それは、素敵な書が、まだ飾られていました。
「この書を、頂こうか?」
そう、優子に聞いたら、静かにこう言われました。
私以外の人は、きっと、みんながそう思っていたんでしょうね。
「大丈夫。そのうち、Timが元気になって、またギャラリーがオープンするから。その時にね。」
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