ジャケ買いで、小山卓治に出会ったのは1985年。
私が、鹿児島の田舎から東京に出てきた年だった。
大学入試の時に、初めて東京という大都市に向かい合った。
いきなり、負けそうになった。
私は、本当の田舎者だった。
大学に合格して、みんなに祝福されて再び訪れた東京。
有り余る自由と、居場所が見つからない不安とが、心に同居していた。
「大学の奴なんか、みんな面白くないぜ。」
周りのみんなには息巻きながら、だけど轢かれたレールの上から飛び出す勇気もなかった。
時代は、バブル。
正義とか、友情より、たくさん飲んで、たくさん遊んでいる奴が「正しい」時代だった。
そんな生き方に憧れて、六本木の怪しい場所で働いたりもした。
ポロシャツの襟を立て、セカンドバッグを脇に持ったりもした。
でも、その世界になじめない自分にいつも気づいてしまう自分がいた。
ものすごいスピードで流れていく時に、時代に、逆らう歌い手がいた。
みんなから崇められるように、自分の魂を唄っていたのが尾崎豊だった。
情熱と、どこにぶつけていいかわからない怒りを、天性の才能と声で唄にしていた。
たくさんの人々が、彼の歌に心震わせていた。
そんなときに、小山卓治はいじけていたんだ。
彼も、妙に綺麗な少年のような声で、自分の魂を唄っていた。
でも、尾崎豊にみたいに力強くメッセージを投げかけていたんじゃない。
ただ、こんな世界なんて。って、いじけて、そんな気持ちを、愚痴を歌にしていた。
今、売れていると言われている歌は、頑張ればできると言う。
諦めなければ、いつか夢は叶うと言う。
大学一年の自分は、いじけていたような気がする。
大学の勉強だけを頑張るほど、視界は狭くなく。
でも、東京の向こうに何があるかわかるほど、世界を知らなかった。
自分は、みんなとは違うんだと意気がってみても。
みんなに取り残されるのが怖い、ただの都会の寂しがり屋だった。
最近、小山卓治のCDを買ったんだ。
びっくりしたのが、ベスト盤として出ていたのがもう8年前の作品。
メジャーのレコード会社からは契約を切られ、インディーズで生きているらしい。
でも、いまでも、心の深いところが揺すぶられる。
自分が、暗い炭鉱の町で育ったせいなのか。
彼の歌う、暗い行き場のない街が目の前にくっきり浮かんでしまうんだ。
だれでも、生きる間にキラリと光る瞬間があるという。瞬間だけど。
小山卓治にはいろんな抒情詩があるけれど、これは傑作だと思う。
やっぱり、泣いた。
Passing Bell -帰郷- 夕刊の片隅 懐かしいあいつの顔写真 テーブルの周りで俺達は この街には敵とそして犠牲者しかいない テーブルの周りで俺達は この街を最初に飛びだしたのは私だった テーブルの周りで俺達は 昔からみんなに優しい男と呼ばれてた テーブルの周りで俺達は 身の上話など俺には関係ないことだ テーブルの周りで俺達は 時計はいつまでも遅すぎる夜を指している テーブルの周りで俺達は
その晩電話のベルがいつもより静かに鳴った
俺達はバッグに黒いスーツをつめ込み
それぞれの街からあいつの眠る街へ急ぐ
ディランを口ずさみながら
むし暑い夜を抱いて
苦い握手と笑顔
昔とおんなじジョーク
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
ここから最後まで逃げだせなかった男
13階のオフィス 仕事が終わったその足で
廊下のダストシュートに頭から飛びこんだらしい
あいつはいつも言ってた
俺はクズみたいな男さ
弱音さえ吐けなかった
負け犬に乾杯
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
ヒットチャートを昇って輝く笑顔を手に入れた
シルクハットに恋してみんなが肩をすくめた時
私を照らすのはまあるいスポットライトだけ
あの曲憶えてるでしょ
イントロはピアノとバイオリン
さあ歌うわ私
拍手をちょうだい
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
疑うことも知らずにあの子と一緒になったんだ
この春に生まれた子供にあいつの名をつけた
ありふれた暮らしのどこが悪いんだい
こんな目に会うくらいなら
死に急いだやつが利口だ
息子の魂のために
グラスを上げてくれ
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
流れ者にだって楽しむ権利はあるさ
みっつ目の名前で新しい仕事を始めた
今ではあの街の顔役に収まった
しこたま儲けた金で
みんなに酒をおごれる
だけど今夜初めて
泣けてくるのはなぜだ
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
若さなんて棒に振るもの 俺達の口癖だった
雨の夜のために残しておいた哀しみを
テーブルに並べて俺達は静かに笑う
ラジオは調子っぱずれ
ふるさとの歌を歌ってる
外はどしゃぶりの雨だ
さあもう1杯やろう
思い思いの形のグラスに
1本のシャンペンを注いだのさ
検索したら、このページにたどり着きました。
この歌私も大好きです。
尾崎も大好きです。
明日(4月25日)は尾崎の命日です・・・
投稿情報: 豊田 | 2010年4 月24日 (土) 22:05