ニュージーランド最大の国立公園、フィヨルドランド国立公園。
世界遺産にも指定されている、この神秘的な国立公園は人を寄せ付けない力強さがあります。
その中でも、ダウトフル・サウンドは全くと言っていいほど人気がなく、静寂かつワイルドなフィヨルドランドの聖地です。
ここをシーカヤックで漕いだのはもう2年以上も前、ニュージーランドに移住する前のことです。
このツアーを経験したことで、ニュージーランドに移住する思いを強くしたと言っても過言ではありません。
ダウトフル・サウンドは、川の流れの侵食で出来た「サウンド」という名前が付けられていますが、正確には氷河が削り取った「フィヨルド」といわれる地形です。
日本でもおなじみの「ミルフォード・サウンド」と比較すると、10倍以上の大きさで、3倍以上の長さを誇ります。
野生動物の宝庫としても知られ、その大自然はまさに圧倒的でした。
ただ、そんな辺境に行くためには、それなりの時間がかかるのです。
早朝5時ごろにテアナウという小さな街を出発、1時間程度車で移動。
マナポウリという湖に着いたら、そこからはボートで移動。約1時間。
対岸で少々休憩した後に、また来るまで1時間程度移動。
結局、漕ぎ出したのは10時ごろ。もう5時間もたっているじゃない!
でも、それだけの価値がありました、ダウトフル・サウンド。
イクイップメントは、すべて貸してもらえます。
ウェットスーツから、ポリプロと呼ばれる耐寒の下着、ブーツ、ハット、パドルジャケットなどなど。
全部、着込みましたよ、寒いんだもの。
ちなみに、私たちが行ったのは2月。
ニュージーランドでは真夏のはずですよね。
私たちが参加したのは、2泊3日のキャンプ・ツアー。
参加者は8名。
アラスカから来た姉妹が2名、カナダの女の子1名、スコットランドの男の子1名、デンマーク人の男性2名、そして私たち日本人2名。
めちゃくちゃインターナショナルな布陣。
それも、カヌー、カヤックはかなりやりこんだ面子が揃いました(優子を除いて)。
楽しい旅になるのは、もう決まったも同然です。
ガイドはAdrian(エイドリアン)という若者。
テアナウ育ちです。
アメリカの東海岸からパナマ運河を通って、西海岸までシーカヤックで漕いだらしい・・・
両岸に見えるのは、切り立った岸壁。
海面から垂直に1200mから1500mの高さで聳え立っています。
ところどころに寄る上陸地では、水分補給。
もちろん滝の水は飲めます。美味しいです。
優子は寒がりですが、本当に寒いんです。
2泊ともキャンプ地は、同じところに設営することに。
ビーチが基本無いので、岩場に上陸し、森の中の木々の隙間にテントを張る。
曇った天候で、周りの山々が反対に神々しく見える。
アラスカ人のやんちゃ娘たちが、フリスビーで遊ぼうと言い出す。
「えーっ、こんなところで?」
「あそこなら出来る!」と平らな砂州を発見。
ただそこまで行くのが大変。
エイドリアン、優しいですね。
彼は、本当にワイルドなキウィでした。
私たちも、慎重にわたる・・・でも、結局水に漬かったんだけど。
夜は、蚊帳の中でみんなで食事を作ります。
なぜ蚊帳かって?
それは、サンドフライというブヨの一種がここら辺では凄いことになっているからです。
上陸した瞬間に、ポリプロの上に何百というサンドフライが集まって、赤のウェアが一瞬で真っ黒になったりします。
私も、虫除けをつけていたにも関わらずその上から指されて、手の甲がぷくっと、あかちゃんの手のように膨れ上がり、微熱まで出てしまいました。
かゆくて、かゆくて、眠れなくなるほどです。
こんなにワイルドなキャンプ、本当に久しぶりでした。
知床で漕いだ以来かな。
これは、2日目の出発時。
ここから、凄いことが起こるんです。
なんと、風の勢いが強くなり、一艇がチンしてしまうんです。
真ん中にもハッチがある、巨大なダブル艇がチンですよ。
正面の風をしのぐために風に向かって垂直に船を向け、波が船を浮かせたところに、横の崖にぶつかった風が跳ね返り、横風となってカヤックごと沈めてしまいました。
再出発。
フィヨルドランドの切り立った崖の間を、通り抜けるように風がやってきます。
崖の間が狭いので、風がどんどん加速してくるんです。
一番風速が強いところが、波しぶきを上げるので、数キロ先にある風が「目」で見えるんです。
「頭を下げろ!漕ぎ続けろ!もっとつよく!」
みんなが、互いに声を出し合いながら、風に向かって漕ぎます。
優子も、一生懸命です。
なんとか、日が出ているうちにキャンプ地までたどり着くことが出来ました。
でも、もう9時を廻っている・・・
経験者が多かったこともあるけれど、3日間で70kmぐらい漕ぎました。
それも、かなりの突風の中で。
ガイドが付くシーカヤック・ツアーは、食事を出してくれるところが多いのですが、ダウトフル・サウンドでは、全部自分で調達。
だから、ランチも朝に自分でサンドイッチ作ったりするんです。
圧倒的な自然の美しさと力強さ。
いるかの群れが、わざわざ自分たちの前で垂直に次々と飛び上がってはダンスして見せる。
カヤックの周りをいたずらしたそうにスイスイと泳いでいる。
そんな体験、初めてでした。
風が見える。白い線となって向かってくる。
そんな身震いのする体験も初めてでした。
元ニュージーランド総督のチャールズ・リトルトンがフィヨルドランドについて、以下のように記しています。
"世界で人類が足を踏み入れたことがない地域は、ほんのわずかでしかない。
そのうちの一つがニュージーランドのように文明化された先進的な国家に存在することは、南島の南西端を訪れなければ信じられないかも知れない。
ぎざぎざのかみそりを背負った山々が、空に頭をそびやかしている。
1年に200日以上の雨が降り、苔や地衣類が隅々までおおって、木の枝がむき出しのまま茶色でいられなくしている。
森は、極度の緑色をしている。
ここは、並外れた大地であり…ある日には、穏やかで、緑色と青色の見本であり、次の日には、陰鬱に霧が立ちこめ、低い雲が頂を隠す…
花崗岩の断崖、急斜面の谷、地震断層そして雷のように轟く滝をもって、畏敬の念を抱かせる土地である。"
その通りだと思うと同時に、やっぱり行ってみないと、自分で経験してみないと絶対わからない。
そう確信させるぐらい、素晴らしいシーカヤック体験でした。
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